川内倫子 Rinko Kawauchi
《無題》2020
川内倫子 Rinko Kawauchi
川内倫子 Rinko Kawauchi
《無題》2019
(いずれもシリーズ〈M/E〉より)

2023.1.21 sat.-3.26 sun.
滋賀県立美術館

写真家・川内倫子(1972–)は、柔らかい光をはらんだ淡い色調を特徴とし、初期から一貫して人間や動物、あらゆる生命がもつ神秘や輝き、儚さ、力強さを撮り続けています。身の回りの家族や植物、動物などの儚くささやかな存在から、長い時を経て形成される火山や氷河などの大地の営みまで等しく注がれる川内のまなざしは、それらが独自の感覚でつながり、同じ生命の輝きを放つ様子を写しとっています。国内では約6年ぶりとなる大規模個展である本展では、この10年の活動に焦点を当て、未発表作品を織り交ぜながら川内の作品の本質に迫ります。

展覧会タイトルでもある〈M/E〉は、本展のメインとなる新作のシリーズです。〈M/E〉とは、「母(Mother)」、「地球(Earth)」の頭文字であり、続けて読むと「母なる大地(Mother Earth)」、そして「私(Me)」でもあります。アイスランドの火山や流氷の姿や北海道の雪景色と、コロナ禍で撮影された日常の風景とは、一見するとかけ離れた無関係のものに思えますが、どちらもわたしたちの住む地球の上でおこっており、川内の写真はそこにある繋がりを意識させます。本展は、人間の命の営みや自然との関係についてあらためて問い直す機会となることでしょう。

作家ステートメント

身体を移動し、撮影したものと向き合うという行為でしか得られないものがある。
それはなぜいまここに生かされているのか、という答えのない問いに少しでも近づくための、自分にとって有効な手段だ。
そんな生活を続けて30年以上が経ち、改めて現在の自分の立ち位置を確かめたくなった。
地域や国というくくりではなく、ひとつの星の上に在るということを。
20年前に一度だけ訪れたアイスランドに2019年の夏に再訪したことで、それは叶えられた。
地球の息吹を感じる間欠泉や、人間の持つ時間を遥かに超える氷河を目の当たりにすることで、自分の存在が照らされたようだった。
とりわけ休火山の内部に入ったときの体験が強く印象に残っている。
上を見上げると火口の入り口から光が差し込んでいて、その形は女性器を想像させた。じっと見ていると自分が地球に包まれている胎児のような気がしてきて、いままでに感じたことのない、この星との繋がりを感じた。
もっとその繋がりを確かめたくて、冬の再訪を計画したが、コロナ禍で叶わなくなったこともあり、昨冬は北海道へ何度か通った。そこには厳しい寒さのなかでしか見えないものがあり、自分の身体が小さくて弱いものなのだと思い出した。

母なる大地、[Mother Earth]の頭文字をとると[M/E].
そのふた文字を書き出すと、肉眼で全体を見ることのできない極めて大きなものから、個に繋がり、それは火口の内部で体験した、地球と自分自身が反転して一体化したような不思議な感覚を想起させた。

川内倫子/写真家

72年滋賀県に生まれる。2002年『うたたね』『花火』(リトルモア刊) の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。著作は他に『AILA』(05年)、『the eyes, the ears,』『Cui Cui』(共に05年)、『Illuminance』(11年、改訂版21年)、『あめつち』(13年)などがある。09年にICP(International Center of Photography)主催の第25回インフィニティ賞芸術部門受賞、13年に芸術選奨文部科学大臣新人賞(2012年度)を受賞。主な国内での個展は、「Cui Cui」(08年・ヴァンジ彫刻庭園美術館)、「照度 あめつち 影を見る」(12年・東京都写真美術館)、「川が私を受け入れてくれた」(16年・熊本市現代美術館)ほか多数。近刊に写真集『Des oiseaux』『Illuminance: The Tenth Anniversary Edition』『やまなみ』『橙が実るまで』(田尻久子との共著)がある。

川内倫子